お題ごとⅢ。【03】

SCHALK.（ http://schalk.xii.jp/ ）さんより頂きました。

【8 color】

03  覚 醒 し た 青

雨の日は嫌い。
物悲しい様々の記憶を、脳裏にちらつかせるから。


ぽつん、と、睫毛の先で水滴がはじけた。
ぽつり。ぽつり。
続けて頬を濡らす滴をそっと手の甲で拭って、空を仰ぐ。
「あれ、雨ですねー」
帽子を目深に被り、買い物袋を抱え直しながら隣で彼女が呟いた。
そうね、と頷く。
「雪じゃなくて雨が降るわけよねぇ・・・」
冬の間にすっかり出不精になってしまっていて全く気付かなかった。
凍てつく寒さはいつの間にか薄らいで、気がつけば暦の上では春。
冬物の上着を羽織っていると若干汗ばんでくる。
「一雨降るごとに暖かくなりますし、本格的な春が来るのももうすぐでしょうか」
早く桜が咲く季節になって欲しいものですーと笑う彼女につられて微笑んだ。
今は鎖国しているかの地から僅かな荷物と共に渡来した彼女を、成り行きで拾って早５ヶ月。
はじめの頃こそどこか他人行儀で淡々とした雰囲気を醸し出していたけれど、今ではすっかりおんぼろ小屋の先住人と打ち解けて日々その大らかさを発揮して仲良くやっている。
「育ちがいいんだろうよ」とは、ある人の言葉だけれど。確かに、と思う。
（無邪気な娘）
その素直さが少しだけ、羨ましい。
そんなことを考えていたら何かを問いたげな視線とぶつかった。
なんでもないの、と緩やかに首を振って、
「春めいてくるのは大歓迎だけど、雨降りは勘弁してもらいたいわ」
忌々しい、呟いて灰色の雲を見上げ、唇を尖らせた。
あの色。あの圧迫感。
どんよりと薄暗く、心まで淀みに引きずり込まれそうな気がしてくる。
忘れちゃいけない、けれどあまり思い出したくないものまで曝されてしまいそうな・・・

隣でぼんやりと空を仰ぐ彼女を見遣ってから、私はそっと目を伏せた。
最近になってちょっとずつわかってきた気がする。
このおんぼろ小屋の主は、寂しいとか悲しいとか辛いとかいった感情を表に出すのを避けているようだ。
こんな風に、何かの拍子にぼーっと物思いに耽る姿をたまに見かける。
最終的には冗談めいた言葉と態度で煙に巻いて話題を変えてしまって、踏み込ませたりしないのだけれど。
（私よりいくらかお姉さんですしね、その分人生経験を積んでいるわけですから）
もう一度帽子の庇に手を掛けてちょいと持ち上げ、隣人を盗み見た。
（色々と・・・話したくないことの一つや二つ、あるんでしょうね）
ここはひとつ彼女の常套手段にのっとって、何も気づかなかった振りをして話を続けておこうと決めた。
「雨の日って」
少しだけ桃色を帯びた赤眼をぱちくりと瞬いて、空を見上げて微笑む。
「私は結構好きですよ？」
一人の物思いの世界から返ってきたらしい。弾かれたようにまばたき一つ、彼女がこちらを見上げてきた。
「そ、そう・・・？　珍しいわね、雨の日が好きって」
「えーと、正確には雨の日自体が好きというよりは・・・」
雨に打たれる緑の鮮やかさや土の香りがふんわり広がる様を思えば、雨だってそんなに悪いものじゃないと思う。
でもそれ以上に。
「曇りのち晴れ、ですよ」
「？」
ちょっぴり怪訝な顔をした彼女の手を引いて、足早に家路へと向かう。
「傘持ってきませんでしたっ、急いで帰らないと全身濡れ鼠ですよー！」
「おぉぅ、風邪ひきフラグじゃない。それこそホントに勘弁！」
朗らかにケラケラ笑ってから、隣も小走りになる。
もしかしたら、住処に着く頃にはこの雨は止んでいるかもしれないですね、と心の内で呟いた。


雨の日も好き。
暗く沈んだ雲間を裂いて、きっと青空は顔を出すから。

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よかった、転居前に更新できた！（最近サボり気味だったからなぁ・・・）
あと１週間と少しで「人生の夏休み」が終了ですヨ。
あぁ～・・・・・・働きたくないわぁ～（コラ）
兎にも角にも、ネンドマツの次には早起きと満員電車がエネミーになりそう。
頑張るしかないかー

それでですね、研修＆転居先のネット環境が整って落ち着くまでしばらくの間低速になります。
発言だけは偽ログで何とかなる・・・かも。
ここを見ている人がどれだけいるかわからないけれど、一応連絡でしたー。

写真はフリー素材屋Hoshino（ http://www.s-hoshino.com/ ）様よりお借りしました。