窓の外では、ぱらぱらと小雨が降っている。
窓際に椅子を引っ張ってきて、ちょこんと膝を抱えて座った。
おもむろに見上げた空は沈んだ鈍い灰色。
(あぁ、まだしばらく降るわね・・・)
雨――・・・rain 、れいん、レイン。
こんな日はふと思い出す。
優しさと儚さと意志の強さを華奢な体に同居させた・・・
彼女のことを。
◇ ◇ ◇
同盟の冒険者として再出発を果たした彼女がまず実施したことのひとつが、かつての所属旅団のメンバーのその後を調べることだった。
これは意外と簡単だった、というのも・・・
(弱装備の医術士が一人でゲートに突入するのに比べたら、ねぇ・・・)
同盟の冒険者たちの現在の記録は、すべて図書館の名簿に集約されている。
そこに出向いて、記憶に残っている限りすべての名を索引で引いてみれば楽々と彼らの今の動向がつかめるというわけだ。
その恩恵にあずかるべく目的の建物にやってきた彼女は、懐かしい匂いを胸いっぱい吸い込んで・・・
「がはっ・・・ゴホ、げほっ・・・!」
思い切りむせた。
「・・・そーいえば、古書の匂いは苦手だったんだワ」
最近古書に触れる機会がなかったものだから、すっかり忘れていた。
涙でちょっぴり滲んで見えた図書館の内装は、4年前とは若干違って見えた。
全体的に本の量が増えたせいかもしれない。
(それだけ記すことがたくさんあったってわけね)
改めて、冒険者たちの手で切り開かれてきたこの大陸の歴史の重みを肌で感じとった気がした。
「さて、と・・・お目当ての名簿、の前に、ちょっと大まかな歴史の流れを復習しておこうかしら」
自分の記憶はどこまで確かかしらねー? と、"Episode1"と表紙に記された分厚い歴史書を紐解いた。
あぁ、これは覚えている。
リザードマン一族の同盟領侵攻に始まって、ドリアッド一族の同盟への参加、そして二度にわたるリザードマン一族との大掛かりな戦(いくさ)。
(当時は今よりも、色んなことが手探り状態だったわねー・・・)
ふっと微苦笑を浮かべてから、次の"Episode2"の表紙の歴史書をパラパラめくった。
「そうそう。リザードマンも同盟入りして、最初のランララがあって・・・あって・・・・・・」
マズイ。
(えっ、もう? ここから先が曖昧だわっ!?)
降り仰ぎ見れば、棚に置いてある歴史書の最新巻は"Episode5"になっている。
ひっじょーに、マズイ。
(半分も記憶してないじゃないのー!!)
あまりのショックに続きを読む気は一気に失せて、すごすごと本を元の棚に戻した。
明日から少しずつ、学びなおしましょ。
慰めるように自分に言い聞かせて、本日のメインである目的のために沈んだ気持ちを切り替える。
「冒険者名簿ですね、館内での閲覧のみとなっております。また転載、複写等はご遠慮ください」
「はいはい、了解よ」
先ほど手にしていた歴史書よりもなお厚い冒険者名簿を抱え上げて、近くの席に腰を下ろした。
手がしびれるほどに重い。それだけここに名を連ねる冒険者の数が日々増えていっているのだろう。
「えーと、じゃぁまずは・・・」
脳裏に浮かんだ古い顔見知りの名を、片端から調べてみる。
いまだ高Lv冒険者として現役で活躍している者は、思ったよりも多かった。
自分のことではないのに何か誇らしいようなくすぐったいような気持ちになって、思わず顔が笑む。
ああ、長きに渡ってこの同盟諸国を支えてきた彼らに、この先も善き道が拓かれますように。
・・・けれどそれ以上に、既に戦列を離れてその後の行方のつかめない者がやはり多かった。
(4年。一言で言えば短いようで、実際は長い年月だものね)
一緒に戦った時間はそう長いものではなかったけれど。
彼らの行く先にも幸せが待っていればいいと、そう願った。
ふぃ~とため息をついて、そうしてから、割とよく話をした一人の少女の名前を思い出す。
作業に慣れ始めた手はパラリパラリと軽快にページを繰って、目的の人物の名簿を拾い上げた。
――― 他とは違う、青味のかった灰色の紙を・・・
◇ ◇ ◇
「――・・・別にね、支援職が・・・例えば私がその場にいたら、とか。そういうことじゃないのよ」
少し前よりは幾らか明るくなっているものの、相変わらず沈んだ、あの紙の色を連想させる空を見上げて独りごちる。
「ただ、ただね、ごめん。お別れ言えなかった」
雨――・・・rain 、れいん、レイン。
(あぁ・・・それでもきっと、明日は晴れるわ)
今は、遠い、雨音。
1stキャラ。
かな~り長い間一線を退いていたが、何を思ったかフラリと復活。
性格、外見、口調がガラリと変更に。
テンション上昇のオマケとしてKY度が上昇中。
◆好:酒、お祭り騒ぎ
◆嫌:露出の多い服、頭を使う話
【冥戒・イザナミ】(右)
2ndキャラ。
前衛職やってみたいーという欲から突発的に生まれた娘。
クールどころか徐々に徐々に、のほほん系へ進化中。
◆好:可愛いもの
◆嫌:辛い食べ物、裁縫、調理
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